生きものにやさしい、豊かな暮らしと生き方

デンドロジスト 濱野周泰さん – 生物は環境の中でしか生きられない。環境の本当の意味を知り、純粋な心で苗木に触れて“心のふるさと”を育んでもらえたら

もりの人に聞いてみた vol.02

デンドロジスト濱野周泰さん生物は環境の中でしか生きられない。環境の本当の意味を知り、純粋な心で苗木に触れて“心のふるさと”を育んでもらえたら

執筆:池畑有晏 / 編集・写真:眞弓英和

濱野周泰さんは、三鷹市民の力を活かしながら花と緑のまちづくりを進める「NPO法人 花と緑のまち三鷹創造協会」の理事長をされており、東京農業大学客員教授でもあります。100年を経て自然の林相となることを目指してつくられた、東京の中心にうっそうと茂る「明治神宮の森」の生態系調査の責任者もされていて、絵本を楽しむ場の提供と共に自然や科学への関心につながる活動を行う「三鷹市星と森と絵本の家」のコンセプトづくりや、三鷹市の文化財保護審議会などにも関わられています。
デンドロジスト(樹木学者)として、いろんな取り組みをされている濱野さん。そんな濱野さんを迎えて、2022年1月9日にみたか100年の森主催で学び舎がひらかれました。その内容を、ICUに在学する池畑有晏の視点を交えながら振り返ってみたいと思います。

生物は環境の中でしか生きられない、その環境を拡大してくれたのは植物でした

── 人と植物との関係について聞かれたら、何が思い浮かびますか?光合成で二酸化炭素を吸収して、酸素を作ることは思い浮かぶと思います。生物的には、植物はクロロフィル(葉緑素)をもち、光合成による化学合成で自ら無機物から有機物を生み出し、生きるために必要なエネルギーを生み出す独立栄養生物であり、人や動物は自ら有機物を生み出すことは出来ず、独立栄養生物より直接的、間接的に摂取、依存している従属栄養生物だそうです。

濱野さん 地球の歴史から見ると、今から46億年ほど前に地球が誕生し、40億年ほど前に水中に最初の生物である原核生物が生まれました。30億年ほど前には光合成生物が生まれて、進化し、20億年ほど前に私たちのような細胞が分裂した真核生物が生まれました。その間、独立栄養生物は炭素同化と酸素放出を繰り返し、大気に少しずつ蓄積され、7~8億年前に有害な宇宙線(放射・電磁・紫外等)を緩和できるほどのオゾン層となり、生物が太陽の恩恵を受けられるようになったことで、水中から陸上へ生活の場を拡大することになります。

── 私たちが当たり前のように暮らす今の地球の環境は、途方もない時間をかけて植物によってつくられ、私たちはその恩恵を受けて生きていました。

なかでも日本は四つの気候帯(水平)に恵まれており、自然が豊かだといいます。それを表す言葉として『八洲豊葦原瑞穂の国』を紹介いただきました。

生物と環境の関係持続と、人の関わり

濱野さん 大八洲(おおやしま)とは日本の古称で、豊葦原(とよあしはら)とはどこに行っても豊かな芦原である。それらをうまく管理すると稲が育つ稲穂の国となります。

日本には四つの気候帯(水平)がある 「大八洲豊葦原瑞穂の国」(大陸東岸の夏雨気候帯)
日本には四つの気候帯(水平)がある 「大八洲豊葦原瑞穂の国」(大陸東岸の夏雨気候帯)

── 生物と環境の関係持続には、人の関わり方が重要であり、その関り方や段階について、保護・育成管理保全管理抑制管理という視点で教えていただきました。気候が豊かな国に暮らし、その恩恵によって生きている私たちに、関係を持続する関わり方ができるのであれば、その使命があるように思います。

実際に濱野さんが生態系調査の責任者として関わった『明治神宮の森(杜)』では、人の想いと知恵でつくられた人工の森で、樹高が高く、都市の中において約3,000種の生き物が生活する多様性豊かな森だそう。今から100年前に150年の時間軸で植林され、人は立ち入らずに自然の摂理に任せてきたのが今の状態です。このまま自然の摂理に任せ続けると、常緑広葉樹のうっそうとした森になってしまい、生物の多様性は落ちてしまいますが、人が生物と環境を混成した『養育・維持・育成』を使い分けながら管理することで、今の多様性を持続する事が出来るといいます。

明治神宮の森(杜)
明治神宮の森(杜)

── また『大手町の森』(都市再生特別地区制度の緑地)では本物の森をつくろうと、明治神宮の経験を活かされたそうです。その実現にあたっては、課題を解決するためにクライアントがともなうリスクへの理解が重要でしたが、本物の森の仕組みを理解することは、人の社会の仕組みを理解することにも通じたため、結果としても必然的に人が集まり、人間らしい生活が現れた場になったのではないかと、濱野さんは考察されていました。

大手町の森
大手町の森

環境の意味とは何か、環境教育の持つ意義

濱野さん 日本では環境教育というと、リサイクル工場やごみ焼却場に行くなど悪いところばかりを見せますが、イギリスの小学校では宗教学(RE:Religious Education)が必修科目。これは“違いをよく知り、多様性を理解する”という意味の宗教学であり、いろんな国からいろんな人種が集まってくるイギリスでは、お互いを知らないと社会が成り立たたず、これによって次の教育の展開に進めるのです。

── このお話は、私のこれまでの経験からも共感するものでした。私は生まれは日本ですが、父親の仕事の都合でずっと海外で暮らしてきました。生後2カ月でスイスのジュネーブに行き、現地の保育園でフランス語を習い、小学校1年生から小学5年生までは中国の首都である北京のインターナショナルスクールに通い、帰国後の小学5年生から中学2年生までは日本の台湾系中華学校に通い、その後の高校3年生までは韓国にあるインターナショナルスクールに通いました。たくさんの国の文化や言語に触れながら、多様な人種と間違いを恐れずコミュニケーションをとる中で、自然と多様性を理解する力が身につき、お互いの文化や習慣を尊重し合うことで人間関係が育まれたと思います。自己表情も豊かになり、人種で差別をしない感覚も養われたと感じています。

濱野さん 健全な森は多くの生き物で育まれ、昆虫の社会でも個性が尊重され、居場所があります。だから生き物の世界を知ることで、自己の主張と社会への共存を学ぶことが出来ます。

── 自身の環境や体験からだけではなく、誰にでも、身近な昆虫や自然の社会からも多様性を学ぶことが出来る。これは私にとっても、とても新鮮でおもしろいアプローチだと感じました。

大手町の森

濱野さん 純粋な心で苗木を生き物として触れることが豊かな感性(色・形・音・香・触)を育み、その原体験は心に残って“心のふるさと”になります。
“大樹も一粒の種子からであり、子供の心を育む教育が大切です。”

── 三鷹には農業のお手伝いを受け入れる農家さんもいて、花と緑のまち三鷹創造協会ではその機会も提供しています。私が今回の場を知って参加するきっかけとなったのも、三鷹ファームでボランティアとして参加した麦踏みでした。こうした身近な体験が三鷹では出来ますし、そういった体験が心を育み、これからの社会を豊かにしていくのかもしれません。

Writer

池畑有晏

環境教育の重要性と向き合う国際基督教大学に通っている大学生。大学では地産地消・環境問題・海外で教育をするなどの活動に取り組んでいます。
父親の仕事の都合で小学生から海外に住んできて、中学生ぐらいから環境問題や多様性を理解する大切を感じました。お互いの文化や習慣を尊重し合うことで人間関係が育まれたということを、これからもっといろんな人に知ってもらいたいです。

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