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食茶房むうぷ施設長  栗山愛理さん – 体に優しいものを食べることは自分を大切にすること。それは他者を想うことにもつながっていく 。地域とともに「食」を通じて、だれもが“ただ人”としてつながり合える社会へ

もりの人に聞いてみた vol.07

食茶房むうぷ施設長
栗山愛理さん
体に優しいものを食べることは自分を大切にすること。それは他者を想うことにもつながっていく 。地域とともに「食」を通じて、だれもが“ただ人”としてつながり合える社会へ

写真:眞弓英和
取材・執筆:五十嵐はるか

東京都三鷹市。JR線吉祥寺駅と京王線千川駅を吉祥寺通りが結ぶにぎやかな立地に、レストラン「食茶房むうぷ」はあります。社会福祉法人むうぷが、障がいの有無に関係なく当たり前の市民として生活できる地域をこころざし、1996年4月に精神障がいがある方々(以下、「利用者」)も誇りと尊厳をもって働ける作業所としてオープンしました。以来、「食」を通じた地域の交流の場所として、体にやさしく栄養バランスのとれた定食やお弁当、お菓子を提供しています。

新型コロナウイルス感染症による影響で昼営業を中止していた時期もありましたが、春ごろから再開して店内には活気が戻ってきています。
「食」「場所」「つながり」をキーワードに、共に生きる社会を目指す食茶房むうぷの新たな取り組みについて、施設長の栗山愛理さんにうかがいました。

土に触れているうちに、取り戻せた自分

── 精神保健福祉士である栗山愛理さんが「食茶房むうぷ」の施設長に着任したのは今年の3月。利用者たちがほっとできて、自己と出会えるような場所にしていきたい。栗山さんの頭に浮かんだのは、「食」と「農」を通じた「“ただ人”としてつながり合える場」でした。その背景には栗山さん自身の体験があります。

栗山さん 精神科クリニックに勤めていたころ、連日あまりにも多い相談件数を受けていて、まともに食事もできず、自分のメンタル管理も難しくなって、ある日突然、燃えつきたんです。どうやって生きていけばいいのかもわからなくなったとき、療養として山梨県で畑仕事ができる慧光寺えこうじを紹介してもらいました。毎日畑に行って土に触れているうちに、自分が自分らしく自然に整っていく感覚があったんです。

ルモアン東京のナチュラルワインと一緒に

── 回復した栗山さんは母親が住む奈良に移り、精神科病院に再就職します。東京に戻るまでの2年間半、自分がいる地域に資源がないときには、関係機関や他の地域と連携すること、自身が外部に出向いて話すことで理解を得る活動などを学びました。

栗山さんは次第に、利用者が通所して働ける「就労継続支援事業(B型)」に、やりがいを見いだしていきます。

栗山さん 働くということに対していろいろなカラーを作り出せる(B型)の中でも、「食茶房むうぷ」のようなレストラン事業は、利用者さんが、だれにとっても欠かせない「食」を介してダイレクトに地域とつながることができるんです。お客様と接することで、いろいろな声を直接聞くことができますし、その体験をほかの利用者さんとも共有していくことを心がけています。

むうぷ…「Mitaka(三鷹) Union(共同) Working(作業) Place(場所)」の略称
むうぷ…「Mitaka(三鷹) Union(共同) Working(作業) Place(場所)」の略称
明るい店内にはテーブル席と座敷があり、のびのびとした広さ。調理場の様子もわかるので、「作る」と「食べる」が融合した空間です
ルモアン東京のナチュラルワインと一緒に
調理場もゆったりし、作業を快適に進めるための充分なスペースが確保されています

施設の肩書きや役割にとらわれない、“ただ人”として地域とつながれる場所

── 栗山さんは、精神疾患を持つ方の社会的な印象とは異なる本当の姿を知ってもらいたい、自身の体験から自分に還れる場所をつくりたいと考え、レストランのライブ的な環境に着目し、ボランティアを柔軟に受け入れたり三鷹市に住むさまざまな作家さんの作品を展示販売するなど、地域との接点を増やしました。

栗山さん 自分の「生」を考える時期があったとき、生産性だけじゃない、何気ない一言や行動が、だれかを励ましたり癒しになったりしているということを患者さんや利用者さんから教わり、救われたことがたくさんありました。しかし彼らは、ある側面から見たら社会から誤解されたり制限されたりして生き方の枠にはめられてしまいます。そういうところが個人的には受け入れがたかったんです。

知らないままだとそこで完了してしまったり、距離を置いたり、嫌悪感を持ってしまったりして悲しいことが起きます。でも、利用者さん自身も“専門的な支援ばかりを受ける役割”にとらわれない、地域に暮らす“ただ人”なんですよね。私も施設長という肩書がついているけれど、本当は一人の“ただ人”です。だからこの施設の一部に、利用者さんも職員も、施設の役割にとらわれないで、地域とつながる要素を持たせたいと思いました。そしたら利用者さんもサポートされるだけではなくて、地域に貢献していくスタイルが作れるかもしれません。

まだはじめたばかりですが、地域のいろいろな人の得意と、好きと、おもしろいが集まれば、すごく形になっていくと思います。お互いを知り、いっしょに何かできたら素敵ですよね。

フロアの一部には地域の作家さんの作品が並ぶ
三鷹市北野「森屋農園」さんのバタフライピーを使い、「星と風のカフェ」さんとつくった琥珀糖「星のかけら」

無添加を心掛け、生産者のわかる安心できる食材で手作り

── 利用者が健康で、誇りを持って働ける原動力となるよう、提供する「食」のコンセプトは、できる限り無添加の食材を使用し、多品目の野菜を取り入れること。調味料は無添加です。「体に優しいものを食べることは、自分を大切にすることにつながり、それが他者を想うことにもつながっていく」と栗山さん。調理も下ごしらえから完成まで、すべて利用者の手作りです。

栗山さんの提案で、料理やお菓子には三鷹産の食材を意識的に取り入れるようになりました。たとえば、野菜は三鷹緑化センター(JA)や近隣の農家から、魚や豆腐も市内の店から仕入れています。三鷹産の食材が入ったお弁当には、利用者が絵を描いた「三鷹産シール」を貼って配達します。

栗山さん 付加価値になり、地域の人たちの応援にもなります。地場野菜は採れたてだから新鮮でおいしいし、三鷹の農地は住宅地との距離が比較的近いため、できる限り農薬の使用を抑えているから、体にも優しいんですよ。

ルモアン東京のナチュラルワインと一緒に
「チキンのあっさりシソ南蛮」に、三鷹産野菜は小鉢に使用した「白ナス」と「大根」
お世話になった慧光寺には今も時々通い、無農薬の野菜がむうぷに届く間柄
利用者さんの考えから生まれたズッキーニケーキは大好評! 三鷹産や山梨産のズッキーニも季節によって使っています

── 常連のお客様からは、「むうぷさんのごはんは安心だよね」と嬉しい声が寄せられます。

栗山さん 「食」だったり「居場所」だったり、安心は大事です。人生の中に安心があると、それだけで勇気も元気も出てきますよね。

── 将来的な目標は、農地を借りて、地域の方をはじめ、だれでも訪れることができる畑を始めること。利用者やむうぷの職員たちと集まった人たちとともに、土に触れたり会話をしたりすることで、ほっとできる空間をめざします。

栗山さん 思いの強さから生意気な態度をとったこともありましたが、周囲はそんな私を受け止めてくれました。本当に人に恵まれて、助けられてここまで運んで来てもらった感じなんですよ。だからもし農地を借りられたら、いろいろな人がいろいろな形で関わり合える場にしていきたいですね。そこからまた、新たなつながりが生まれていくと思います。

ルモアン東京のナチュラルワインと一緒に

── 通常営業に戻して半年以上がたちましたが、売り上げのかなめのひとつでもあるお弁当の販売数の減少や、利用者さんの工賃の確保・維持、その人がその人らしく安心と誇りをもって働ける環境であるかどうかなど、課題は少なくありません。でも、一人ひとりがつながり合って生まれたエネルギーは、楽しみや生きがいをもたらします。食茶房むうぷの地域を巻き込んだ活動から、支え合いの輪が広がっています。

Writer

五十嵐はるか

編集者。主に育児を中心とした生活や健康、社会活動の取材・執筆、絵本制作に携わる。

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