生きものにやさしい、豊かな暮らしと生き方

いろんな人の想いが詰まったカフェ。エコロジーを軸に人が集う場所にしたかったけど、はじめはどのように関わっていけるのか分からなかった – カフェ・カワセミピプレット店主 ブランシャー明日香さん

もりの人に聞いてみた vol.03

カフェ・カワセミピプレット店主
ブランシャー明日香さん
いろんな人の想いが詰まったカフェ。エコロジーを軸に人が集う場所にしたかったものの、はじめはどのように関わっていけるのか分からなかった

取材・執筆・写真:眞弓英和

ブランシャー明日香さんが営む「カフェ・カワセミピプレット」は、三鷹のおとなり、西荻窪の善福寺公園のそばにある小さなエコロジーカフェ。地産地消のランチは野菜中心。ヴィーガン対応メニューもあり、店内にはこだわりのエコな雑貨や本が並びます。エコイベントやワークショップも定期的に開催され、建物をとりまく庭には野鳥が集い、様々な植物が四季折々の景色を織りなします。これはきっと、エコロジーへの並々ならぬ想いがあって、計画的にお店をはじめられたのだろう、と思いきや…

カワセミピプレットは『人生フルーツ』からはじまった、いろんな人の想いが詰まった場所

── 以前は翻訳や英語講師などをされていたという明日香さん。隣に住んでいたおじいさんと仲がよく、「地球環境が気になるけど、どうしていいか全然わかりませんね」、なんて立ち話をよくしていたのだそう。ある日、おじいさんに「人生フルーツ」(映画 2017)が素晴らしいと勧められて観に行きました。その感動を涙ながらに2人でわかち合い、次第に、おじいさんの所有する土地にキッチンカーか小さな小屋を設置して、地域の人達がおしゃべりができる場を創ろう!という話で盛り上がります。すると、人生フルーツを見て感動したという、明日香さんの英語クラスで学ぶ建築家の方が図面を描くと名乗り出て、さらにはその方の、フランス人で建築家である義父も加わることになり、話は面白い展開へところころ転がっていきました。

明日香さん 人生フルーツならやっぱり自然素材がいいよねとか、いろいろとアイデアが出てきて今の形になったものの、すごい金額になってしまって…。でも、おじいさんがコミュニティのためにやりたいとコミットしてくださり、そのおかげもあって2年越しでこの建物が建ったんです。だからここは、いろんな人の夢と想いが詰まった場所。家族でもない人とのつながりと信頼関係で生まれたこの場所があることで、きっとここに来て下さるたくさんの人とも同じように信頼関係が生まれるんじゃないかって、そういう希望があります。建築にこだわった理由は、人はいい環境の中にいるといいインスピレーションやアイデアを自然に共有できる、と思ったからです。

はじめは、環境問題やエコロジーにカフェとしてどのように関わっていけるのか分からなかった

── こうして2019年の5月、「カフェ・カワセミピプレット」が生まれました。明日香さんはもともと、ジェイムズ・ジョイスの大作「ユリシーズ」の支援者となったシルヴィア・ビーチが好きで、シルヴィアがパリの左岸に創立した書店「Shakespear and Company」のような文学活動の中心地として時代を創っていくような場所を、エコロジーを軸に創れないかと考えていたのだそう。ただ、これまで飲食店や経営の経験が全くなかった明日香さんにとっては、まずはカフェを続けていくことに精一杯の毎日。最初の一年は、環境問題やエコロジーに、カフェとしてどのように関わっていけるのかまでを考える余裕はありませんでした。

明日香さん お店をはじめた時からエコロジーカフェとは謳ってはいましたが、ランチメニューではお肉を出していましたし、プラスチックは“あんまり使っていません”ぐらいだったんです。ただそれすらも、なぜプラスチックを使わないのかまでは理解できていなくて、手探りでエコを目指している状態でした。

── 転機が訪れたのは、開店からちょうど1年後のことでした。

明日香さん あの頃はコロナで、4月、5月とお店を休業せざるを得ない状況でした。時間があってモヤモヤしていた時にちょうど、ネイチャーセミナーというのがやっていたので参加することにしました。そこではじめて、武本(匡弘)さんにお会いしたんです。

武本さんはもともとプロダイバーで40年も海に潜りながら、ダイビング会社の社長としても、多くのダイバーを育てられ、ビジネスとしては充分に成功されていた方なんです。ところが、日々サンゴ礁が失われてゆく光景をまのあたりにする状況に危機感をもたれて、その時にされていたビジネスを人に譲って環境活動家という仕事に変わられました。私はそのお話に本当に引き込まれてしまって、終わったころには自分でもびっくりするぐらい「私も環境活動家です!」みたいな感覚になっていました。私だったらカフェという舞台を活かしてこういう事ができる! やってみたい! と考えるようになり、環境問題を自分ごととして考えるスイッチが入ったんですね。

そこからは、自分がどこに向かっていこうとしているのかが分かるようになりました。それが意識ができるようになってくると悩む時間も激減して、“今日は何する? 明日は何する? それじゃあ1カ月後は何をしようか?”と考えるようなっていったんです。武本さんは「自分ごと」にさせるのが天才的にうまい人。私が今の取り組みが出来るようになったのは、武本さんのおかげなんです。

── 明日香さんは武本さんに、「なぜこの絶望的な状況の中で、こんなに頑張れるんですか?」と聞いたことがあるのだそう。すると武本さんは、「それは明日香さんみたいな人に出会えるから。まだ知らなかった人が知っていき、その人が自分の力で何かやっていこうとはじめる瞬間に立ち会えるのが好きだから、君みたいな人がいるから僕は頑張れる」と、おっしゃられたそう。

明日香さん まだ何もできていない自分に希望を見出してくれたことが衝撃的でした。今では私も人と関わりながら、その瞬間に立ち会えることが嬉しいなって感じています。

自分ごとにしていくきっかけが、活動の原動力になるんじゃないか

── 明日香さんは自身が体験したこの面白い感覚は、同じように気持ちや関心はあるけれど何をしていいか分からない人の助けになるんじゃないか、自分ごとにしていくきっかけが市民活動の原動力になるのでは、と考えるようになりました。そこで、自身も学びながら、そのきっかけとなるようなイベントやワークショップを開催していきます。そのカタチの一つが、2022年春から秋にかけて行われる『西荻オトナカ大作戦』と『西荻グッバイ・ウェイスト大作戦』。この作戦のオープニングとなる読書会では、課題本の『人新世の資本論』(斎藤幸平著)の指南役として、武本さんが来られます!

明日香さん この本のテーマは、私にとっても本当に難しいけれど、武本さんはそれをすごくかみ砕いてビジュアルで説明してくれます。それが自然と入り、ずっと頭の中にビジュアルとして残るんですね。ぜひ、多くの方に体験してみて欲しいです! 仲間を増やしていきたいという人にも、こういうやり方があるんだって知れるので良いと思います。

── 4月28日には、元衆議院委員の堀越けいにんさんをお招きしてお話会も開かれます。

明日香さん 例えば私の視点でも、工業的な畜産が環境に負荷をかけていることは分かるけれど、堀越さんは、その問題を動物福祉や疫学など別の視点から教えてくれます。また、元衆議院議員として市民運動が政治とつながることの重要性も教えてくれます。

連携して、存在感を大きくしていくことの大切さ

明日香さん アカデミックの世界、政治の世界、ビジネスの世界、市民の世界、持続可能な社会づくりと、ひとくくりに言っても、その方向はバラバラですごく乖離していると感じています。それを放っておく気にはなれないし、1つの市民グループや自治体だけでどうこうできる問題でもありません。周りのグループや自治体とも連携したり、都市と地方を結んだり、世界にも目を向けながらも、あくまでローカルで盛り上げていく。そうやって存在感を大きくしていくのは大事だと感じています。

今はとんがっているように映るかもしれないけれど、10年たったら「普通だよね」って、そう感じられる社会になったらいいなって思うんです。なのでこれからも、このカフェを通して「こんなことがあるよ~」って、伝えていきたいですね。

明日香さんの記事

Writer

眞弓英和

個や団体、国や思想など、それぞれに想いや取り組みがあって。人だけじゃなくて生き物や、認識できない次元にも世界があって。そういう関係を大事にして重ねていきながら、大きな物語を描いていけたらいいな、幸せな方向へと向かえたらいいなと思っています。

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