生きものにやさしい、豊かな暮らしと生き方

100さいの森

100さいの森

著者: 松岡達英 / 出版社:講談社

えほん食堂
vol.09

山手線の外回り電車で代々木駅を出てから原宿駅まで、進行方向右側の車窓には緑豊かな森の景色が続きます。

東京の人なら一度は行ったことがありそうな?? 明治神宮の森です。

圧倒的な木の太さと、奥が見渡せないほどうっそうとしたその森を見て、東京にもこんな自然が残っていてよかったなぁと思われる方も多いかもしれません。が、実はこの森、100年前に人工的に造られたって、知っていました?

『100さいの森』のお話は、明治神宮の森が造られた100年前に植えられたスダジイの大木が3羽のヤマガラに、森のなりたちと歴史を語る形で進みます。背景をよく知っていただきたいので、以下に紹介するストーリーは、作者の伊藤弥寿彦さんのあとがき「明治神宮100年の森の物語」を参考にしています。

ちょっと長くなりますが、おつきあいください。

令和からさかのぼること四時代前の明治の天皇が亡くなって、東京に明治天皇・皇后をお祀りする神社を作ろう! ということになりました。

お二人に縁のあった旧井伊家庭園跡を含めた代々木の荒れ地がその場所として選ばれ、「鎮守の森」づくりを任された3人の林学・造園学の専門家たちは、日本各地の神社の森を観察・研究しました。その結果、太古の時代に東京に広がっていた原生林こそが、永遠に続く「鎮守の森」としてもっともふさわしいと考えました。

太古の森づくりに必要な、ぼうだいで多様な樹木は、3人の画期的な思いつきで全国から寄付で集めることになりました。鉄道会社もひとはだ脱いで、寄付樹木の運賃を半額にしたため原宿駅には全国からたくさんの樹木が。広大な敷地に樹木を一本一本植えたのも、全国から集まった青年団(ボランティア)だったそうです。今でいえば、クラウドファンディング、ワンチームみたいですね。

政治家からは「杉林を!」と圧力がかかったそうですが、そのような中で、3名の専門家がすごいのは、“太古の森”を目指したセンスの良さだけではなく、50年後、100年後、150年後の森の姿をしっかりと計算し、どこにどんな木を植えるかを緻密に設計をしたこと。そして、一度植樹したら、自然に任せて誰も森に手を加えないというルールを作ったとことでした。

ですから、森の最初の主役だった針葉樹たちは、計算通り成長の早い広葉樹たちにやがて追い抜かれ、日が当たらなくなって枯れて倒れて行きました。でも、倒木や枯れ葉は片づけられることなく、昆虫や小さな動物や菌類の手で分解されて、良質の腐葉土となって森の木々の成長を支えました。

今では背の高い広葉樹が主役となった明治神宮の森ですが、最初に定められたルールはしっかり守られているそうです。大木が倒れた跡には、ふかふかの腐葉土の上で、どんぐりから芽吹いた幼木が次のつぎの主役を目指してぽっかりと空いた青空に向かって背伸びしています。

賢人たちは、100年以上も前にSDGsの大切さに気づいていたのです。

これが、明治神宮のリアルな物語ですが、さて、絵本の中の語り部スダジイは、どんな話をしてくれるのでしょうね。初詣だけではなく、たまには100年の森を歩きに行ってみませんか? とても気持ちのよい森が待っていますよ。

店主のつぶやき

古の賢人たちの知恵が造った明治神宮の森。神宮外苑の森の設計にも同じ精神が息づいているはずなのに、どさくさにまぎれて安直な高層オフィスビルを建てようなんて…実に情けない話です。

Writer

あぷりこっとつりー

絵本と雑貨の店「あぷりこっとつりー」です。絵本は小さなお子様から大人まで楽しめるように、国内外の新刊&古本合わせて3000冊以上展示しています。お気に入りの一冊をゆっくりと探してください。雑貨はドイツと飛騨高山の手作り木のおもちゃや、店主が旅先で見つけた民芸品などをならべています。ほっとしていただける触れ合いの空間にで ...

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