生きものにやさしい、豊かな暮らしと生き方

気候危機っていま、どうなっているの?これまでの流れとあわせて紹介。地球が回復できなくならないよう、生物多様性保全と両立しながら、この3年で野心的に温室効果ガスの排出を減少に転じることが、世界の目標になっています。

気候変動は見える形で深刻化しており、その影響を肌で感じられている人も多いのではないでしょうか。2019月9月に行われた気候変動に関する政府間パネル(IPCC)にて、国連のグテーレス事務総長が「気候変動はもはや気候危機である。」と発信し、気候変動に対する各国の動きを加速するよう促しました。2020年に日本政府からも、人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」であると気候危機宣言が可決され(2020年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書)、この2020年代の10年で気候危機に取り組まなければ、取り返しのつかない未来を招くは「決定的な10年(critical decade)」といわれ、各国で脱炭素社会に向けて取り組みが進められています。その背景には何があったのでしょうか。

産業革命後の気温上昇を1.5℃以内に抑えないと、後戻りできなくなるって本当?

流れを追ってみると、2015年にパリで開催されたCOP21で採択された「パリ協定」の中で、2020年からの10年で気候危機に取り組むべく、産業革命後の気温上昇を2℃以内に抑える「2℃目標」とともに、1.5℃に抑える努力を追求するとして「1.5℃目標」が合意されました。

その後、IPCCは2018年10月に1.5℃の気温上昇に着目し、2℃の気温上昇との影響の違いや、気温上昇を1.5℃に抑えるための道筋等について取りまとめた「1.5℃特別報告書」を公表します。そこで1.5℃と2.0℃とでは影響に歴然の差があること、温度変化に適応する能力の限界は 1.5℃の地球温暖化でも見られ、2℃においては生態系、食料システム及び健康システムの適応がより困難になる事が予測されました。また連鎖的な反応を引き起こし、地球のレジリエンス(耐性と回復力)を超えて後戻りできなくなる可能性が見えてきました。大変なことです。2℃の気温の違いというと、身近な気温変化でも起こりうることなので分かりにくいかもしれませんが、地球を一つの生き物としてあなたに置き換えてみると分かり易いかもしれません。もしも、自分の平均体温が急激(地球の歴史から見ると)に2℃上がって、その変化に身体が適応できるかと考えると、難しいですね…

しかもすでに、私たちは1.5℃に留まるためのカーボンバジェット(温室効果ガスの累積排出量:過去の排出量+将来の排出量)の多くを使っており、2017年には工業化以前の水準より約1℃の上昇(可能性の高い範囲は0.8℃から1.2℃上昇)がみられ、猶予が少ないことも示されました。

1.5℃と2℃の影響の違い

出典:IPCC1.5℃特別報告書、COP24 IPCCサイドイベントのR. Mechlerのスライドなどより(2018)

気候変動対策と生物多様性保全の両立が重要な鍵となる

サンゴ礁や生物生息域の消失など、生態系への深刻な影響が見て取れますが、これは自然の寄与(生態系サービス)で生きる人を含めた生物の、生存基盤が失われるということです。生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きています。この生きものたちの命のつながりを生物多様性と呼び、生物多様性を守り持続的に利用するための「選択肢」と「行動」に関する知識の現状を政策決定者に提供するのが、IPBES(イプべス)と呼ばれる、130を超える加盟国を持つ独立した政府間組織です。気候変動と生物多様性は複雑に絡み合っているため、気候変動対策と生物多様性保全は一緒に取組む問題とし、IPBESとIPCCが2020年の秋より合同ワークショップをはじめ、2021年9月に報告書が公表されました。その一部を紹介します。

多様性目標に向けたコベネフィット(一つの活動がさまざまな利益につながっていくこと)を生むことがある

  • 豊富な炭素貯蔵量と生物種を擁する陸域・海域の生態系の損失と劣化を回避し反転させることは、生物多様性保護と気候変動緩和の両立に加え、気候変動適応の大きなコベネフィットを生むために最も重要である。
  • 豊富な炭素貯蔵量と生物種を擁する陸域・海域の生態系の再生は、気候変動緩和と生物多様性の両方に高い効果があり、気候変動適応の大きなコベネフィットを生む。
  • 持続可能な農林業の実践は、適応能力の向上、生物多様性の向上、農地及び森林の土壌や植物体内の炭素貯蔵量の増加、並びに温室効果ガス排出量の削減につながる。
  • 都市におけるグリーンインフラの構築は、気候変動緩和のコベネフィットを生む気候変動適応と生物多様性再生の手段として利用が拡大している。
  • 陸域と海域の両方の生態系において、自然を活かした解決策と技術的な対策を融合した、生物多様性に貢献する気候変動緩和・適応策の選択肢が既にある。

気候変動緩和・適応のみに焦点を絞った対策は、自然や自然の恵みに直接的・間接的な悪影響を及ぼす可能性がある

  • バイオマスエネルギー生産のための大規模な植林や作物栽培など、バイオマスによって生態系の炭素貯蔵増量を増やす気候変動緩和策は、気候システムに他の重要な影響を与える可能性がある。
  • バイオエネルギー作物(樹木、多年生草本、一年生作物を含む)の大規模単一栽培は、生態系に悪影響を及ぼし、他の多くの自然の恵みを減じ、多くのSDGs の達成を妨げる
  • 元来森林ではなかった生態系への植林、及び特に外来樹種を用いた単一樹種の再植林は、気候変動緩和に貢献する可能性があるが、生物多様性に悪影響を与えることが多く(図2参照) 、気候変動適応への貢献は明確に示されていない。
  • 気候変動緩和に有効な技術的対策の中には、生物多様性に深刻な脅威を与える可能性があるものもある
  • 気候変動適応のための技術的対策は、自然や自然の恵みに深刻な悪影響を与えることがある一方、自然を活かした解決策を補完できる

気候変動緩和策による生物多様性保全策への影響

青色の線は正の影響(相乗効果)、オレンジ色の線は悪影響(トレードオフ)を表す.ここに示す対策には未だ試験的又は構想段階のものも含まれ、従って今後の展開によって相互作用は変化する可能性がある。
出典:IPBES and IPCC (2021). The Scientific Outcomes of the IPBES-IPCC co-sponsored workshop on biodiversity and climate change, Figure 7-2 (p130)(仮訳)

気候変動対策が生物多様性に悪影響を及ぼしうることがあり、総合的なアプローチが重要になってきます。詳しい情報は報告書をご覧ください。
生物多様性と気候変動 IPBES-IPCC*合同ワークショップ報告書:IGESによる翻訳と解説|公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

「1.5℃目標」が世界目標へ、2050年までに炭素排出量のネットゼロを目指す

このような科学的な知見の蓄積や、現実に各地で洪水や熱波など深刻な被害が相次いだことから、2.0℃目標では不十分とする機運が高まり、2021年のCOP26では、産業革命以前からの気温上昇を1.5℃以内に抑えることを目指して努力を追求する「1.5℃目標」が合意されました。

この達成に重要なのが、温室効果ガスの排出を完全にゼロに抑えることは現実的に難しいため、温室効果ガス(GHG)の排出量と吸収量を均衡させて、排出量を正味ゼロにする「ネットゼロ」とよばれる状況です。同じ文脈で「カーボンニュートラル」があり、日本政府も2020年10月に2050年までにカーボンニュートラルを目指す宣言をしました。

環境省 脱炭素ポータル
令和4年度版「エネルギー・温暖化対策に関する支援制度」(都県・政令市)

1.5℃に抑える選択肢はまだあるが、猶予は3年

IPCCが2022年4月に公表した「第6次評価報告書第3作業部会報告書」では、2010-2019年の全世界の年間平均GHG排出量は人類史上最も高い水準であったものの、増加のペースは減速し、気候変動対策は増えており、少なくとも18カ国が⽣産に伴うGHGと消費に伴うCO2の排出削減を10年以上の⻑期にわたって持続させています。しかし、既存及び計画中の化⽯燃料インフラからのCO2排出量のみで、既に1.5℃経路における累積排出量を上回ることが予測され、世界のGHG排出量は依然として増加しており、2.0℃⽬標の達成すら難しい状況が分かりました。

1.5℃に抑える選択肢はあるものの、すべての部門において排出量を早急かつ、野心的に削減しない限りは、地球温暖化を1.5°Cに抑えることは不可能とし、1.5°C前後に抑えるには、世界の温室効果ガス排出量を遅くとも2025年までに減少に転じさせ、2030年までに2019年比で43%削減し、メタンも約3分の1を削減する必要があるそうです。
IPCC 第6次報告書 第3作業部会 報告書 政策決定者向け要約 解説資料

部門別の需要側の削減対策

この需要側の削減対策について、日本だから出来ること、また三鷹だから出来ることがあると思うので、活動されている方とつながりながら、その可能性を探っていきたいと思います。

食と農、土地劣化についても、少しずつまとめていきますね。

眞弓英和(もりの人みっけ編集部)

参考文献